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予防接種

麻疹

麻疹

麻疹ウイルス(measles virus)によって罹る感染症で、麻疹(はしか)は感染症法に基づく4 類感染症定点把握疾患です。学校保健法に基づく第二種の伝染病に指定されており、登校基準としては、「発疹に伴う発熱が解熱した後、3日を経過するまで出席停止とする」とされております。

感染性は非常に高く、感受性のある人(免疫抗体を持たない人)がウイルスの暴露を受けると90%以上が感染します。

疫学

わが国では通常春から夏にかけて流行し、1984 年に大きな全国流行があり、1991年にも流行があり、毎年地域的な流行が反復しています。

年間10~30万例の発症があり、年齢では1歳にピーク、2歳以下の罹患が約50%、罹患者の95%以上が予防接種未接種の患者です。麻疹による死亡例が毎年報告、現在もなお数十名の死亡例、年齢的には0~4 歳児が大半を占め、特に0、1歳児の占める割合が多くなっています。

発症予防には麻疹ワクチンが有効ですが、わが国の1歳児の麻疹ワクチン接種率は約50%と極めて低いのが問題となっており、繰り返しますが患者のほとんどが予防接種未接種です。

病原体

麻疹ウイルスは直径100~250nmの一本鎖RNA ウイルスで、ヒトからヒトへの空気感染(飛沫核感染)の他に、飛沫感染、接触感染など様々な感染経路で感染します。人に感染させる期間は、発熱時に始まり、第5~6発疹日(発疹の色素沈着以後)頃までですが、感染力が強いのは、発熱が始まって2~4日位です。

臨床症状

前駆期(カタル期):潜伏期10~12日で、38℃前後の発熱が2~4日間続き、倦怠感、不機嫌、上気道炎症状、結膜炎症状が現れ、次第に増強します。乳幼児では消化器症状として下痢、腹痛を伴うことも多いです。発疹出現の1~2 日前頃に頬粘膜の臼歯対面に、やや隆起し紅暈に囲まれた約1mm 径の白色小斑点(コプリック斑)が出現し診断的価値がありますが、発疹出現後2日目の終わりまでに急速に消失してしまいます。

発疹期:カタル期での発熱が1 ℃程度下降した後、半日くらいのうちに再び高熱(多くは39。5 ℃以上)が出るとともに(2峰性発熱)、特有の発疹が耳後部、頚部、前額部より出現、翌日には顔面、体幹部、上腕におよび、2 日後には四肢末端にまでおよびます。発疹が全身に広がるまで、発熱(39。5 ℃以上)が3 ~4日間続きます。発疹ははじめ鮮紅色扁平ですが、まもなく皮膚面より隆起し、融合して不整形斑状となります。

回復期:発疹出現後3~4日間続いた発熱も回復期に入ると解熱し、全身状態、活力が改善。

発疹は退色、色素沈着がしばらく残り、カタル症状も次第に軽快し、合併症のないかぎり7~10 日後には回復します。

合併症

麻疹の二大死因は肺炎と脳炎です。肺炎はウイルス性肺炎と細菌性肺炎、巨細胞性肺炎があり、細菌性の肺炎は 肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが二次的に感染して起こります。 巨細胞性肺炎は成人の一部、あるいは特に細胞性免疫不全状態時にみられる肺炎で、肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるものです。これは予後不良で、死亡例も多いものです。発疹は出現しないことが多く、麻疹抗体は産生されず、長期間にわたってウイルスが排泄されます。
中耳炎は、麻疹患者の約5 ~15%にみられる最も多い合併症の一つで、細菌の二次感染により生じます。乳幼児では症状を訴えず、中耳からの膿性耳漏で発見されます。

喉頭炎および喉頭気管支炎は合併症として多く麻疹ウイルスによる炎症と細菌の二次感染によります。犬が遠吠えするときのような独特の咳が出て、声がかすれ、ひどくなると息を吸うときに「ゼーゼー」と音がするようになります。これをクループ症候群といいますが、夜間突然呼吸困難発作を起こすことがあります。

心筋炎、心外膜炎をときに合併し、麻疹の経過中半数以上に、一過性の非特異的な心電図異常がみられますが、重大な結果になることは稀です。

1,000 例に1例の割合で脳炎を合併し、発疹出現後2~6日頃に発症することが多いですが、麻疹の重症度と脳炎発症には相関はありません。患者の約60%は完全に回復しますが、20~40%に精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺などの中枢神経系の後遺症を残し、 致死率は約15%です。

亜急性硬化性全脳炎は、麻疹ウイルスに感染後、特に学童期に発症することのある中枢神経疾患で、知能障害、運動障害が徐々に進行し、発症から平均6~9 カ月で死の転帰をとる進行性の予後不良疾患です。発生頻度は、麻疹罹患者10万例に1人、麻疹ワクチン接種者100万人に1人です。

治療・予防

麻疹ウイルスに直接効く治療薬や治療法はなく、対症療法が中心となります。予防接種で予防することが大事で、現状においては、集団生活に入る前にワクチンで予防しておくことが、現在取り得る最も有効な感染予防方法です。

接種後の反応としては発熱が約20~30%、発疹は約10%にみられます。ごく稀に(100~150 万接種に1例程度)脳炎を伴うことが報告されていますが、麻疹に罹患したときの脳炎の発症率(1,000 例に1例)に比べると遙かに低いので、副反応の脳炎を心配するよりも予防接種を行い麻疹の予防を行うことの方が望ましいでしょう。

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