乳がん検診
日本でも乳がんの発症が急速に増加し、日本人女性の約20人に1人が一生の間に乳がんになるといわれています。早期の乳がん(非浸潤癌)の検出率はマンモグラフィで56%、乳房MRI検査で92%と海外の文献では報告されています(Kuhl CK,et al:Lancet,2007)。それを受けて、日本の乳がんに関するガイドラインにおいても、乳房MRI検査の科学的根拠の有用性が認められています。
日本では癌拠点病院ですら残念ながら汎用コイルで代用している施設が多いのが現状です。当院では、乳腺専用受信コイルを使用していますので、汎用コイルを使った乳腺MRIでは見逃されている乳がんも早期に発見し専門施設で手術をうけて全員完全寛解(治癒)を得ています。
上記の写真は、1年ごとに乳房MRI検査を受けている方に見つかった早期の乳がんです。最大径が8mmでStage0(非浸潤がん:乳管内・小葉内に留まっているがん)であったため乳がん周囲の摘出だけで抗がん剤・放射線治療等を使うこともなく完全寛解(治癒)となっています。乳がんを発見しやすくするためMRIの調整で実際の大きさよりも大きく見えるように調整してあります。
検診で精密検査を勧められた方、乳房にしこりがあるなど何らかの症状のある方は保険で乳腺MRIを受けることができますので、なるべく早めに検査のご予約をされるようにお薦めします。当院では乳腺専用受信コイルを使用しているため,乳腺MRIを取るためにはMRIのコイルを変更しなければいけませんので、乳腺MRI検査日は検査専用日を指定させていただいていますので、電話でご確認ください。
マンモグラフィで早期の乳がんを見つけるためには良い機械・優秀な検査技師と経験を積んだ専門医がそろっても検出率は5割程度です。乳がんに不安がある方は,ぜひ乳腺専用受信コイルを使用した,乳房MRI検査を受けることをお薦めします。乳腺専用受信コイルを使用した乳房MRI検査を行っている当院では現在のところ早期の乳がんを1例も見逃していません。
一般的な乳房がん検査とMRIによる乳がん検査
左側は検診で一般的に行われているマンモグラフィ(Ⅹ線)の検査です。マンモグラフィの画像では白く写った部分ががんですが、乳腺症など良性の乳房の病気でも乳腺が白く写るので、これだけでがんを確定することはできません。とくに若くて比較的乳房が小さく、乳腺が密集している人は、上の図のように検査画像が全体的に白っぽくなり、がんを見分けるのが困難です。
右側は同じ方のMRI画像ですが,がんの部分だけがはっきりと映っており、がんの広がりも良く分かります、マンモグラフィや超音波検査で見えない数mmの乳がんを見つけることもできます。
初めに書きましたが、2007年にドイツの専門家グループによってマンモグラフィとMRIを比較した研究結果が報告されたました。早期乳がんの患者にマンモグラフィとMRIで検査し、そのがんの検出率を比較したところ、MRIの検出率は92%であったのに対して、マンモグラフィによる検出率はわずか56%にとどまったのです。つまりマンモグラフィは簡便で比較的精度が良い乳がんの画像診断装置ですが、それでも44%もの見落としがあったのです。
乳がんによる死亡率を減らすためには、マンモグラフィによる検査だけでは難しく、MRIによる検査を行うことが必要です。
増加している乳房がん
現在、アメリカ人女性の8人に1人が、一生の間に乳がんになるといわれています。日本でも乳がんに罹患してしまう患者さんは増えてきています。
国立がん研究センターがん対策情報センターのデータでは、1990年代後半から乳がんの罹患率は、女性の悪性新生物の第1になっています。死亡率も上昇してきています。
大切なのは、定期的な検診です。グラフに示したように乳がんは、女性がかかりやすいがんの1位です。一方で、早期発見すれば治癒する確率が高いがんです。しかし、初期症状がほとんどないのが特徴でもあります。だからこそ、定期的な検診がとても大切なのです。
術後の乳房がん診断
乳がんの危険性が高い女性
欧州乳房画像診断学会(EUSOBI)のガイドラインでは、乳がんの危険性が高い女性は、年に1回MRIによる乳がん検診を行うことが望ましいとされています。
乳がんの危険性が高い女性(生涯に20%から25%以上の乳癌罹患リスクを持つ人)を医学的に説明すると難しくなりますので、特に乳がんの危険性が高い女性を箇条書きにしてみます。
- 近親にが乳がんに罹った患者さんがいる
- 初潮年齢が14才未満(16才以上の4倍)
- 身長160センチ以上(148センチ未満の2.4倍)
- 出産歴がない(出産歴のある女性の2.2倍)
- 48才以上で月経がある(54才以上で48才未満の2倍)
乳がんの危険性が高い遺伝子変異
患率の高いグループには、BRCA1か BRCA2の遺伝子突然異変を持っているか、女性自身に遺伝子がなくとも、女性の娘や姉妹が遺伝子突然異変を持っていれば、罹患率の可能性が高まります。
これらの突然異変遺伝子は一般的ではなく、乳癌全体の10%以下の原因に留まっています。しかし、これらの遺伝子をもつ女性は罹患リスクが36%から85%まで高まります。
それに加え、TP53またはTPENと呼ばれる、より稀な突然変異遺伝子をもつ女性や、ホジキン病のような疾患のために10歳から30歳までに胸に放射線治療を受けた女性には、MRI検査を受けるよう勧められています。