日本脳炎
主にコガタアカイエカによって媒介され、日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus)によっておこるウイルス感染症であり、ヒトに重篤な急性脳炎をおこします。
日本脳炎は4 類感染症全数把握疾患であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ることになっています。
疫学
世界的には年間3~4万人の日本脳炎患者の報告がありますが、日本では、1966 年の2,017人をピークに減少しており、1992 年以降発生数は毎年10人以下で、ほとんどが高齢者です。しかし、毎夏日本脳炎ウイルスを持った蚊は発生しており、国内でも感染の機会はなくなっていません。
病原体
日本脳炎ウイルスは、15-32nmの小さな球状ウイルスです。
ヒトからヒトへの感染はなく、増幅動物(ブタ)の体内で増えたウイルスを、蚊が吸血し、その上でヒトを刺した時に感染します。ヒトで血中に検出されるウイルスは一過性で、量的にも極めて少なく、自然界では終末の宿主です。
感染しても日本脳炎を発病するのは100~1,000人に1人程度で大多数は無症状で終わります。
臨床症状
潜伏期は6~16 日間で、定型的な病型は髄膜脳炎型ですが、脊髄炎症状が顕著な脊髄炎型の症例もあります。
典型的な症例では、数日間の高い発熱(38~40 ℃以上)、頭痛、悪心、嘔吐、眩暈などで発病します。小児では腹痛、下痢を伴うことも多いです。
引き続き急激に、項部硬直、光線過敏、種々の段階の意識障害とともに、筋強直、脳神経症状、不随意運動、振戦、麻痺、病的反射など神経系障害を示唆する症状が出現します。感覚障害は稀で、麻痺は上肢に多くみられます。痙攣は小児では多いですが、成人では10%以下です。
死亡率は20~40%で、幼少児や老人では死亡の危険が大きくなっています。精神神経学的後遺症は生存者の45~70%に残り、小児では特に重度の障害(パーキンソン病様症状、痙攣、麻痺、精神発達遅滞、精神障害など)を残すことが多いです。
治療・予防
日本脳炎ウイルスに直接効く治療薬や治療法はなく、対症療法が中心となります。
症状が現れた時点で、すでにウイルスが脳内に達し脳細胞を破壊しているため、将来ウイルスに効果的な薬剤が開発されたとしても、一度破壊された脳細胞の修復は困難と考えられます。
日本脳炎の予後を30 年前と比較しても、死亡例は減少していますが全治例は約3分の1とほとんど変化していません。
予防が最も大切な疾患で、予防の中心は蚊の対策と予防接種です。不活化ワクチンが予防に有効で、第I 期として3歳で1~2週間間隔で2回、さらに1年後に1回の計3回、第II 期として9~12歳に、第III期として14~15歳にそれぞれ1回追加接種します。