風疹
風疹ウイルス(rubella virus)によっておこる発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹症です。先天性風疹症候群予防のために、妊娠可能年齢およびそれ以前の女性に対するワクチン対策が重要です。風疹は4類感染症定点報告疾患で、学校伝染病の第二種伝染病となっており、登校基準としては、紅斑性の発疹が消失するまで出席停止とされています。
疫学
春から初夏にかけてもっとも多く発生しますが、冬にも少なからず発生があり、次第に季節性が薄れてきています。わが国では風疹の流行は2~3年の周期を有し、しかも10年ごとに大流行がみられていました。最近では、1976、1982、1987、1992年に大きい流行がありました。
病原体
直径60~70nmの一本鎖RNAウイルスで、上気道粘膜より排泄されるウイルスが飛沫を介して伝染します。伝染力は麻疹、水痘よりは弱いといわれています。人に感染させる期間は、発疹出現の前後約1週間とされていますが、解熱すると排泄されるウイルス量は激減し、急速に感染力は消失します。
臨床症状
14~21日(平均16~18日)の潜伏期間をおいて、発熱、発疹、リンパ節腫脹(ことに耳介後部、後頭部、頚部)が出現します。発熱は風疹患者の約半数にみられる程度です。3徴候のいずれかを欠くものについての臨床診断は困難で、溶血性レンサ球菌による発疹、典型的ではない場合の伝染性紅斑などとの鑑別が必要になり、確定診断のために血液検査が必要な事もあります。
多くの場合、発疹は紅く、小さく、皮膚面よりやや隆起して全身にみられます。発疹が良くなった後、色素沈着がみられることもあります。リンパ節は発疹の出現する数日前より腫れはじめ、3~6週間位持続します。
基本的には予後良好な疾患ですが、血小板減少性紫斑病(1/3,000~5,000人)、急性脳炎(1/4,000~6,000人)などの合併症をみることもあります。
成人では、手指のこわばりや痛みを訴えることも多く、関節炎を伴うこともありますが(5~30%)、ほとんどは一過性です。
先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)
妊娠前半期(3ヶ月以内)の妊婦の初感染により、風疹ウイルスが胎盤を通って胎児に感染(胎盤感染)し、先天異常を含む様々な症状を呈します。妊娠中の感染時期により重症度、症状の発現時期が様々で、先天異常として発生するものとしては、先天性心疾患、難聴、白内障、網膜症などがあります。
先天異常以外に新生児期に出現する症状としては、低出生体重、血小板減少性紫斑病、溶血性貧血、間質性肺炎、髄膜脳炎などがあり、幼児期以後に発症するものとして、進行性風疹全脳炎、糖尿病があります。
治療・予防
風疹ウイルスに直接効く治療薬や治療法はなく、対症的に行うしかありませんので、予防が大事な病気です。弱毒生ワクチンが実用化され、広く使われています。我が国では平成6年の予防接種法改正以来、生後12カ月以上90カ月未満の男女に対しては公費で予防接種が行われています。
風疹の流行の規模は縮小しつつありますが、発生が消えたわけではありません。風疹に対する免疫を有しない女性が妊娠した場合に風疹の初感染を受ければ、先天性風疹症候群発生の危険性が高いことは明らかです。しかし、抗体陽性率(風疹に対する抵抗力を持ている率)は低く、12歳女子における風疹抗体陽性率は52%にすぎないといわれていますので、風疹に罹ったことのない女性や風疹の予防接種をしたことのない女性は、受けておいたほうがいい予防接種です。合併症もほとんどなく軽い病気ですが、大人になってから罹ると血小板減少性紫斑病や脳炎をおこすこともあります。男児も無料で受けられるうちに受けておいたほうがいいでしょう。